心臓は全身に血液を送るポンプの役割をしています。
このポンプが正常にポンプとして働くためには、血液を一定方向に送る弁、血液を正しい方向に送るための管腔構造(血管、心臓の部屋)、心臓を動かすための筋肉、そして正しい調律(脈)が必要になります。
これらのうちどれが欠けても正しく心臓は動きません。
ですから、心臓病といっても弁や弁領域に異常がある弁膜症や狭窄症、血管の異常による開存症や心臓の部屋の異常による欠損症、心臓の筋肉に異常が生じる心筋症、調律が異常になる不整脈などに分類されます。
心臓病を診断するためには超音波検査が非常に有用です。また、レントゲン検査、血液検査、心電図検査を組み合わせることによって心臓病の診断精度はより高いものとなります。
ちなみに、「うちの子は心肥大と診断されました」と聞くことがありますが、心肥大は病名ではなく、何らかの原因によって心臓が大きくなったことを心肥大(正確には心拡大)といいます。
つまり病気の診断はできていませんから、正しく診断し病気に沿った治療が必要だと思われます。
また、生まれつきの血管異常によって肝臓を悪くしてしまう門脈体循環シャントという病気があります。
心臓病ではないのですが血管の病気ということで、循環器の病気として紹介させていただきます。
治療方針について
当院では、動物たちの身体に負担がかかることのないよう、初めから血液検査やレントゲン検査をするということはいたしません。
飼主様から、しっかりと動物の普段の様子や異変に気が付いた状況など詳しく問診を行ってから、初めて聴診など身体検査を行います。
そして、詳しく検査が必要と判断した時に、血液検査やレントゲン検査、エコー検査など実施します。
治療法についても、ご説明をさせていただきますので、ご安心ください。
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- 問診
- 問診は診断を確定させるためにも重要な情報です。
そのため、まずは詳しい症状を飼い主様よりお聞きします。(説明が難しいと感じられましたら、携帯かスマートフォンで動画を撮られる事をお勧めいたします。)
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- 身体検査
- 身体検査をしっかり行うと共に、雑音がないか心臓や肺の音を聞きます。
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- 検査、治療の提案
- 病気により治療法が異なるため、必要があれば血液検査やレントゲン検査・エコー検査を実施し診断を確定します。
ご説明をさせて頂いた後、治療法をご説明いたします。
主な循環器の病気(症状)
僧帽弁は心臓の左側にある心房(左心房)と心室(左心室)という部屋を隔てている弁です。
僧帽弁閉鎖不全症は弁膜症の1つで、僧帽弁が加齢とともに変性し完全に閉じることができないために、全身に流れるべき血液が肺の方向に逆流してしまいます。
マルチーズ、プードル、チワワ、シーズーなどの小型犬に多く、特にキャバリアではほとんどが発症します。
初めは心臓の雑音のみで症状はありませんが、だんだんと運動に対して耐えられなくなります。
加齢とともに増加する病気ですのでちょうど年をとったせいだと考えてしまいがちなので注意が必要です。
さらに進行すると、痰を吐くような咳や空咳がでます。
軽症では興奮した後や運動時や運動後、重症になると安静時にもでるようになります。命に関わるような重症例では、失神、呼吸困難、時には心房破裂など起こすこともあります。呼吸困難は重症例でよくみられ、逆流した血液のために肺がうっ血し、肺に水がたまる(肺水腫)ためにガス交換ができずに舌が青紫色になったり、あえぎ呼吸をしたりします。
僧帽弁閉鎖不全症は弁膜症の中で最も多く発生する病気ですが、同時に三尖弁閉鎖不全症と合併(両房室弁閉鎖不全症)していたり、大動脈弁閉鎖不全症や肺動脈弁閉鎖不全症などの弁膜症も合併していたりすることもあります。
治療
早期発見、早期治療がよいでしょう。
無症状 (心臓の雑音のみ) の時から薬を投与することによって、完治はできませんが病気の進行をかなり遅らせ、生活の質を向上させることができます。
進行した症例では、血管拡張薬、強心剤、受容体遮断薬、利尿薬、鎮咳薬など非常にたくさんの薬を投与しないとならない場合もあります。
一部の専門病院において弁形成術や人工弁置換術などの外科治療が行われております。
若くして発症し、薬で管理できなく心臓さえ治してしまえば長期にわたる生存が期待できる症例には一考する価値があります。
三尖弁は心臓の右側にある心房(右心房)と心室(右心室)という部屋を隔てている弁です。
三尖弁閉鎖不全症は弁膜症の1つで、三尖弁の異常によって完全に閉じることができないために、肺に流れるべき血液が滞り、全身の血液の循環が悪くなります。
症状は、運動不耐、発咳、削痩、むくみ、腹水、失神などがあります。
三尖弁閉鎖不全症は、フィラリア感染症で起こったり、僧帽弁閉鎖不全症、大動脈弁閉鎖不全症、肺動脈弁閉鎖不全症などと合併していたりすることもあります。
治療
血管拡張薬、強心剤、受容体遮断薬、利尿薬、鎮咳薬などを症状に合わせて使用します。
腹水が貯まり過ぎて、動けない場合や食欲がなくなる場合は腹水を直接抜くこともあります。
生まれつき(先天性)の病気で、心臓の左側の心室から全身に血液を送る大動脈の部位が狭いために起こる病気です。
弁そのものに異常が生じる弁狭窄、弁の下側に狭窄が生じる弁下部狭窄、弁の上側に狭窄が生じる弁上部狭窄に分けられます。
ゴールデンレトリバーやニューファンドランドのような大型犬に多く発生します。
症状は、狭窄の程度によって様々ですが運動不耐、失神、突然死などがあります。
治療
軽症例では硝酸イソソルビドなどの冠血管拡張薬を使います。
突然死する可能性もありますので興奮や運動には注意しましょう。
重症例ではカテーテルによるバルーン拡張術が行われます。
生まれつき(先天性)の病気で、心臓の右側の心室から肺に血液を送る肺動脈の部位が狭いために起こる病気です。
先天性の心臓病の中で比較的発生率が高く、弁そのものに異常が生じる弁狭窄、弁の下側に狭窄が生じる弁下部狭窄、弁の上側に狭窄が生じる弁上部狭窄に分けられます。
症状は、軽症例では無症状のこともありますが、元気消失、運動不耐、失神などがあります。
治療
症状が軽度の場合は投薬によって経過をみますが、重症例ではバルーンカテーテルによる拡張術やパッチクラフトによる弁拡張術などの外科的な対応が必要になります。
生まれつき(先天性)の心臓病で、生まれる前の胎仔期に大動脈と肺動脈をつなぐ動脈管が生後も閉鎖しないために起こる病気です。
症状は、運動不耐、元気消失、咳、失神、呼吸困難、削痩、成長不良などがあります。
治療
治療の目的は動脈管という血管を閉塞することです。
1つはカテーテルによってコイルを使って血管を塞栓させる方法です。
この場合は足の血管からカテーテルを入れるので手術侵襲が少ないという利点がある反面、完全閉塞に至らない場合、コイルの脱落の危険性、特殊な設備が必要であることがデメリットとなります。
もう1つの方法は胸部を切開し、直接血管を閉じてしまう方法です。
デメリットはカテーテル法に比べて施術侵襲が大きいことが挙げられますが、メリットとして特殊な設備が要らないため比較的容易に手術ができることです。
当院では直接血管を閉じてしまう方法を行っております。
どちらの方法を選択したとしても早期治療によって完治させることができます。
しかし、時間経過が長くなると心臓の血液の流れが本来の流れと変わってしまうアイゼンメンゲル化という現象を起こしてしまいます。
こうなるとすでに手遅れの状態で、その動物の寿命は限られたものとなります。
生まれつき(先天性)の病気で、心臓を左右に分けている中隔という壁に穴が開いた状態になっている病気です。
心房に穴が開いている場合を心房中隔欠損症、心室に穴が開いている場合を心室中隔欠損症といいます。
穴が小さな心房中隔欠損症では症状が見られないことがありますが、運動不耐、元気消失、咳、失神、呼吸困難、削痩、成長不良などの症状がみられます。
治療
内科療法によってある程度症状を抑えたとしても病気は進行します。
完治するためには外科手術によって穴を閉じることです。
非常に大変な手術となりますが、手術が成功すれば通常の動物と同じ寿命を全うすることができます。
心臓を構成して、心臓を動かしている筋肉そのものが薄くなり機能障害を起こす病気です。
ドーベルマン、ボクサー、グレートデン、シェパードなどの大型犬に多く発生します。
拡張型心筋症になると心臓の筋肉が収縮できないために心臓を中心に血液が滞ってしまい、運動不耐、発咳、呼吸困難、失神、胸水や腹水の貯留が起こります。
そして、心臓が大きく拡張するために、弁の周囲も拡張することで僧帽弁閉鎖不全症や三尖弁閉鎖不全症を伴います。
また、心房細動という不整脈を合併した場合の寿命はより短いものとなります。
治療
現在は内科による治療が主体です。
受容体遮断薬、血管拡張薬、強心剤、利尿薬、抗不整脈薬などの薬を投与します。
投薬で症状が落ち着いたとしても、病気は進行しますので継続した治療が必要となります。
猫に最も起こる心臓病で、心臓を構成している筋肉が非常に厚くなってしまう(=肥大する)病気です。
この心臓の筋肉の肥大は内側に向かって厚くなるために心臓の部屋(心室)が非常に狭くなります。
そのために血液が滞ってよどむために血栓を形成することで血栓症を起こすことがあります。
症状は、無症状、元気消失、発咳、胸水や肺水腫を伴う呼吸困難、失神、突然死などがあり、血栓症によって突然の後肢の麻痺を起こすこともよくあります。
レントゲン検査では心臓の外観しかわからないので、心臓の筋肉が内側に肥大する肥大型心筋症では一見正常に見えてしまうこともあります。
ですから診断には心臓の中がみられる超音波検査が非常に有用です。心臓の拡張期の中隔という部位の筋肉の厚みが6mm以上で診断的といえます。
しかし、慢性腎不全、甲状腺機能亢進症、糖尿病、副腎皮質機能亢進症、副腎髄質の腫瘍、筋ジストロフィー、末端肥大症なども心筋が厚くなる病気なので鑑別が必要になります。
逆に超音波検査で心筋の厚みが5mmであっても、小型の猫の場合や左心房の拡大が著名な場合などは肥大型心筋症と診断することもあります。
治療
内科による治療が主体です。
血管拡張薬、受容体拮抗薬、受容体遮断薬などを投与します。血栓症の危険性がある猫では3日に1度、抗血小板薬の投与が有効です。
血栓症によって後肢の麻痺を起こした場合は非常に致死率が高く、たとえ回復したとしても再発率も高いので注意が必要です。
投薬により症状が落ち着いたとしても、進行性の病気なので治療の継続が必要となります。
犬と猫に感染する寄生虫感染症です。
虫体は細長い糸状(そうめんのような形)で心臓の右側、つまり肺動脈から右心室にかけて寄生します。
フィラリアに感染した犬の血液中には「ミクロフィラリア」という目には見えないフィラリアの子虫が多数存在しています。
この犬の血を蚊が吸うことで血液中のミクロフィラリアをいっしょに吸飲します。
この蚊が、再度犬や猫の血を吸うときにフィラリアの子虫を感染させてしまうのです。
寄生を受けると、フィラリアは心臓に到達して心臓を悪くします.症状は発咳、運動不耐、削痩、腹水、むくみなどがあり、猫では突然死を起こすこともあります。
また、尿が赤くなり急速に状態が悪化する大静脈症候群と呼ばれる状態になることがあります。
この場合は手術でフィラリアを取り出さなければなりません。
治療
寄生虫による病気なので駆虫すれば済むと考えるかもしれません。
駆虫した場合、お腹の中にいる寄生虫であれば便と一緒に排出されますが、心臓にいるフィラリアはその先の血管に詰まってしまいます。ですから、重症例では駆虫できません。
寄生数が少数で軽症例であれば駆虫は可能ですが危険を伴います。
また、外科的に摘出する場合もすでに心臓の機能が低下している状態ですので危険を伴います。
無症状であれば、予防をしていきこれ以上感染させないことも重要です。
また、症状によって血管拡張薬、強心剤、利尿薬、抗血栓薬、鎮咳薬などを使用します。腹水が貯まり過ぎて、動けない場合や食欲がなくなる場合は腹水を直接抜くこともあります。
予防法がある病気なので、しっかりと予防し感染させないことが重要です。
心臓が規律正しく動くために電気的な刺激と流れによってコントロールされています。
この電気の刺激が違う場所で発生したり、流れに障害が起こったりすることで心臓の動きが調整できず不整脈になります。
不整脈には非常にたくさんの種類があり、治療の必要性がないものから命に関わる重症のものまであります。犬では呼吸に合わせて心拍数が変化する呼吸性洞性不整脈というものがありますが、これは異常ではありません。
無症状、運動不耐、元気消失、失神、食欲不振などの症状がみられます。
心拍は環境によって大きく変わりますので病院内での検査でわからない場合は、ホルター心電図という検査で24時間の心拍を検査することがあります。
治療
不整脈を起こすような他の病気があるならば、まずその病気を治療しなければなりません。症状がない場合は経過観察することもあります。
危険な不整脈は、積極的に抗不整脈薬や冠血管拡張薬などを投与します。
内科に反応しないある種の不整脈の場合は、ペースメーカーを埋め込まなければならないことがあります。
血管の異常によって起こる病気です。正常な動物では、腸から栄養を吸収する時に、腸内の細菌の毒素やアンモニアも一緒に吸収します。
これらの栄養と毒素は門脈という血管を通って肝臓に運ばれ肝臓で代謝や解毒を受けます。
門脈体循環シャントの動物では、門脈から肝臓を通らずに他の血管につながる血管(=シャント血管)があるために様々な異常を起こします。
生まれつきのもの(先天性)がほとんどですが、そうでないもの(後天性)もあります。
食欲不振、嘔吐、活力の低下、成長不良などが見られます。
アンモニアなどの毒素が脳に到達することにより、よだれ、ふらつき、盲目、発作などの神経症状が食後に多く発生することも特徴の1つです。
血液検査で肝機能の低下、高アンモニア血症、総胆汁酸の高値を認めればかなり疑いが高くなります。
確定診断はシャント血管を見つけることで、ときに超音波検査でも発見できます。以前は手術が前提の場合に手術時に造影剤を投与するレントゲン検査で確定診断していましたが、現在では侵襲性の少ないCT検査が好まれています。
同じように高アンモニア血症や総胆汁酸の高値を示す先天性疾患には、アミノ酸代謝異常、尿素サイクル異常などの代謝異常や、門脈微小血管異形性、肝臓動静脈ろう、特発性肝線維症などがあり、治療法が全く違ううえに外科適応外ですので注意が必要です。
治療
先天性の門脈体循環シャントのみ外科による完治が可能です。
投薬によってある程度症状は緩和されますが、時間とともに進行し肝臓は萎縮・硬化し、肝機能障害を起こしやがて死に至ります。
ですから、診断された時点で早期の外科手術がよいでしょう。
シャント血管は非常にバラエティーに富んでおり、シャント血管の位置と太さで難易度が変わります。
位置は大きく分けると肝外と肝内に分かれます。
肝内シャントは大型犬に多く、非常に難易度が高いため一部の施設でのみ対応可能です。
肝外シャントでは門脈圧を計測することでシャント血管の閉塞度合いを調節することができます。
血管を閉塞したときに血圧が高すぎると手術後早期に合併症を起こし、死に至ります。
つまり、1回の手術で完全に閉塞することもあれば、2回の手術に分けてシャント血管を閉塞することもあります。
手術後にてんかん様発作やその他の合併症も起こし易く死に至ることもありますので要注意です。当院では肝外シャントの場合のみ手術可能です。
門脈の高血圧に伴い発症する門脈体循環シャントは外科適応外です。
門脈高血圧症を起こす病気には、肝硬変、慢性肝炎、肝臓動静脈ろう、特発性肝線維症などがありますが、いずれの場合も腹水を伴うのが一般的です。